海上保安レポート 2023

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 海上保安能力のさらなる強化


海上保安庁で働く「人」


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 海上交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

6 海上交通の安全を守る > CHAPTER III. マリンレジャー等の安全対策
6 海上交通の安全を守る
CHAPTER III. マリンレジャー等の安全対策

海上保安庁では、船舶の運航及びマリンレジャー等の沿岸海域における活動に伴う事故の減少を目指しています。

特に、船舶事故の約6割を占めるプレジャーボートの事故や、カヌー、SUP(スタンドアップパドルボード)、遊泳、釣り等のマリンレジャー中の事故に対して積極的な海難防止活動を行っています。

令和4年の現況
1 海難防止活動

海難を防止するためには、船舶操縦者やマリンレジャー愛好者の安全意識の向上を図ることが重要です。

このため、海上保安庁では、国の関係機関や民間の関係団体と連携し、漁港やマリーナ等における訪船指導や海難防止講習会、小中学生を対象とした海上安全教室の開催、安全啓発リーフレットや、SNS等拡散効果の高い媒体を使用した情報提供を行っています。また、アクティビティごとの事故防止のための情報をまとめた総合安全情報サイト「ウォーターセーフティガイド」を開設し、ミニボート、水上オートバイ、カヌー、SUP、釣り、遊泳、スノーケリングの7つのアクティビティについて公開しているほか、新たに、海洋状況表示システム海しる」において陸釣りや船釣りで過去に事故を確認した場所を日本地図上に表示した「釣り事故マップ」を公開して、海中転落等の事故情報をわかりやすく発信しています。

更に、近年のマリンレジャーの活発化・多様化に対応するため、民間団体等に所属する各マリンレジャーの専門家の知見を活用して、現場における訪船指導や海難防止講習会を行う海上保安官のマリンレジャーに対する見識を深め、適切で効果的な啓発活動を行うための研修を行い、海上保安官の現場指導能力の向上を図っています。

そのほか、経験の浅い方に対する安全啓発を関係団体が主体となり推進していくために立ち上げた「SUP安全推進プロジェクト」や舟艇及び水上安全等に関わる官民の団体が集い、水難事故の防止に関する情報共有や効果的な連携方法について議論等を行い、更なる海難防止と安全対策の向上を図ることを目的としている「日本水上安全・安全運航サミット(JBWSS)」といった枠組みに参画、支援し、安全対策の向上に取組んでいます。また、情報発信力のある業界団体や愛好者と連携し、当庁が実施する安全講習会の模様をSNSで広く発信してもらうなど、より効果的・効率的に安全啓発活動を行っています。

また、マリンレジャー活動が活発となる夏季には、「海の事故ゼロキャンペーン」を実施し、官民の関係者が一体となって海難の未然防止を図るなど、重点期間を定め効果的な啓発活動を行っております。

釣り事故マップ

釣り事故マップ

「海の事故ゼロキャンペーン」ポスター

「海の事故ゼロキャンペーン」ポスター

「シーバードJAPAN」と連携した合同パトロール

「シーバードJAPAN」と連携した合同パトロール

安全教室の状況

安全教室の状況

訪船指導の状況

訪船指導の状況

2 海上安全指導員

プレジャーボートによる事故を防止するためには、海上保安庁のみならず、愛好者が自助、共助の考えに基づく対応をとることが重要です。

海上保安庁では、昭和49年から、プレジャーボートの安全運航のため、指導・啓発等の安全活動を積極的に行っている方々を「海上安全指導員」として指定しており、全国で約1,500名(令和4年12月末時点)の海上安全指導員が活動しています。

また、近年、活発化・多様化しているマリンレジャーに対応していくため、海上安全指導員の制度と併存する安全啓発に主体的に取り組むマリンレジャー愛好者や関連事業者の個人や団体との協働による安全啓発の枠組みについて検討を進めています。

海上安全指導員との合同パトロール状況

海上安全指導員との合同パトロール状況

海上安全指導員が安全啓発活動時に用いるグッズ
YouTubeを活用した安全啓発動画の配信

海上保安庁では、より多くの国民の皆様に効果的な周知啓発を行うため、YouTubeを活用して安全啓発動画を配信しています。

安全啓発動画は、「3分でわかるマリンレジャーの安全対策」をコンセプトとし、マリンレジャーを楽しむうえでの注意点など有用な情報を掲載しています。

第1弾としては、「釣り」に着目した安全啓発動画を配信しており、順次SUPなどのマリンレジャーについても配信を行っていきます。

YouTubeを活用した安全啓発動画の配信
YouTubeを活用した安全啓発動画の配信
【楽しく学ぶシリーズ第1弾】知ってほしい!釣りに行くときに注意すること

【楽しく学ぶシリーズ第1弾】
知ってほしい!釣りに行くときに注意すること

楽しく学べる!安全情報ツール「ウォーターセーフティガイド」

国民の皆様に事故なく、安全にマリンレジャーを楽しんでいただけるよう、海上保安庁公認の「海の安全推進アドバイザー」にご協力いただき、それぞれの専門とするレジャーに関する情報や安全に関する情報など、読めばより楽しめる様々なコラムを定期的に掲載しています。

また、スノーケリングによる事故が、他のマリンレジャーに比べて死亡率が非常に高いことから、新たにスノーケリング編を開設し、スノーケリングの安全に係る基本的な知識や技術について掲載しました。

※海の安全推進アドバイザーとは、沿岸域で発生する事故の未然防止並びに事故発生後の救助・救命体制の充実・強化を目的に設置した海の安全推進本部において、様々なアクティビティについて専門的・技術的な知見を有する者を委嘱し、安全対策への助言や協力をしていただいています。

ウォーターセーフティガイド

ウォーターセーフティガイド

民間主導によるSUP安全推進プロジェクトの立ち上げ

近年、SUP中の海難(帰還不能)が多発している中、令和3年9月には、SUPツアー中にツアー客1名が漁船と衝突して死亡した事案が発生しました。SUP海難多発の背景には、手軽に始められるマリンレジャーとして急に人気が高まり、経験の浅い方がインストラクターなどからレクチャーを受けずに海難に遭うという事案が多かったところ、本件はインストラクターが同行している中での海難でした。

この状況を鑑み、海上保安庁では早急かつ広範囲に対策を講じる必要があると考え、全国各地のSUP振興団体が安全なレジャー活動推進の中心となる枠組みづくりのため、全国規模のSUP関係7団体及び関係省庁で構成する「SUP安全対策会議」を開催しました。

同会議では、経験の浅い方に対する安全啓発のほか、インストラクター養成に係る安全管理の基本的事項の策定等を行うため、全国規模では初となる民間主導による「SUP安全推進プロジェクト」を立ち上げることとなりました。本推進プロジェクトでは、上記関係7団体のほか、取組に賛同する53のショップ等(令和5年1月1日現在)が主体となり、SUPの安全啓発を行っています。

SUP安全推進マーク

SUP安全推進マーク

全国のSUP安全推進プロジェクト推奨団体

全国のSUP安全推進プロジェクト推奨団体

3 「海の安全情報」の提供

海上保安庁では、海難を防止することを目的として、プレジャーボートや漁船等の操縦者、海水浴や釣り等のマリンレジャー愛好者等に対して、ミサイル発射や港内における避難勧告等に関する緊急情報、海上工事や海上行事等に関する海上安全情報、気象庁が発表する気象警報・注意報、全国各地の灯台等で観測した気象現況(風向、風速、気圧及び波高)、海上模様が把握できるライブカメラ映像等を「海の安全情報」としてパソコン、スマートフォン及び電話で提供しています。

特に、スマートフォン用サイトでは、GPSの位置情報から現在地周辺の緊急情報、気象の現況等を地図画面上に表示することで、利用者が必要な情報を手軽に入手することができます。

また、緊急情報、気象警報・注意報及び気象現況については、事前に登録されたメールアドレスに配信するサービスを提供しています。

さらに、より多くの利用者に情報を知らせるため、英語ページの開設、Lアラートへ配信するなどのサービスも提供しています。

*災害時における迅速かつ効率的な情報伝達を目的として、国や地方公共団体等が発する災害情報等を多様なメディアに一斉配信するための、一般財団法人マルチメディア振興センターが運営する共通基盤システム。

今後の取組
ウォーターセーフティガイドの充実強化

近年、プレジャーボートの海難が多発しており、その中でも機関故障による海難が最も多く発生しています。また、小型船舶操縦士試験合格者数の増加に伴い、操船経験の浅い方による事故が増加傾向にあるため、ウォーターセーフティガイドに、新たにビギナー船長向けに分かりやすく即活用できる安全情報をコンセプトした「モーターボート編」を新設することで、プレジャーボート愛好者に対する啓発活動を行っていくこととしています。

安全啓発に取り組む愛好者、団体等との協働

マリンレジャーに対する安全啓発活動について、関係省庁や自治体などの関係機関のみならず、愛好者や愛好者団体などの協力を得て、情報発信力のあるSNS等を活用した安全情報の発信やイベント等での注意喚起など、安全の呼びかけを自発的に行う体制を構築し、安全啓発活動の範囲拡充を図ります。